Stanford CIS

Creating rights to control import of CDs and rental of books

By Yuko Noguchi on

報道によると、政府は、音楽CDの輸入権と書籍の貸与権を新たに導入することを3月4日に決定し、5日に閣議決定することになりました。

この方針は、昨今の知的財産国家戦略の一環として、今年の1月に文化審議会著作権分科会報告書(概要)で提言されたことに基づき、2月中旬に法律改正案が発表され、明日の閣議決定、という運びです。(これが、著作権法改正のメインのパターンなので、一応ご紹介しました。)

さて、手続きはともかく、内容については、巷には疑問視する声があふれています。特に、音楽産業の保護のため、という目的で導入が決まった輸入権は、海外に権利者が正規にライセンスして生産された海外正規版CDを逆輸入することを発売から7年以内(政令でおそらく5年間?)禁止する、というものです。内容や権利者の主張などを解説する記事としては、たとえば、こちらをご覧ください。

これについては、既にあちら こちらなど(他にも色々あります!)で、疑問視する声が上がっています。

これは、特に、並行輸入と絡んで問題になってきます。これまで、知的財産では一般に、海外で正規に生産されたものを逆輸入するときに、その輸入を止めるために知的財産を行使することはできない、と考えられてきました。これは、「ライセンスするチャンスは一度与えれば充分である」という原則(権利の消尽)に基づいています。権利者は、一度、海外生産の時にライセンスを行って、そのときにライセンス料をもらっています。その商品が日本に逆輸入される場合に、再度ライセンス料を取るのでは、ライセンス料の二重取りになる、ということです。そのことから、独占禁止法の観点からも並行輸入は問題視されているところです。

権利者にしてみると、「しかし、アジア圏では経済格差があり、最初のライセンス料を少ししか取れない。それなのに、その商品が日本に格安で入ってくると、国内での値崩れを招くばかりで、苦しい。」ということなのでしょう。しかし、輸入品問題は、ブランド品に関する商標などでも当てはまる問題です。そして、商標では、権利者は平行輸入品を禁止することは出来ず、価格の高い国内商品の市場を維持するためには、国内商品に付加価値をつけること(たとえば、アフターケア・サービス、保証サービスなどの国内限定サービス)で、逆輸入商品に対抗しているのが現状です。それでは、どうして音楽業界は、そうした努力による販売維持ではなく、法的な市場分割を許されるのか、ということが問題になる訳です。特に、音楽には、著作物の再販売価格維持、という独占禁止法の特別措置によって、国内での値崩れが防止されているところへの二重保護なので、公正取引委員会は疑問視する声を上げています。それでも、改正に踏み切る背景には、音楽業界があまりにも危機的だから、という配慮があるのでしょうか?それとも、それが「知的財産国家戦略」の路線に合うからなのでしょうか?もしも、後者なのだとすると、法律は政治トレンドではない、ということを、今一度考える必要があると思います。

書籍の貸与権は、新たに創設するわけではなく、昭和59年の著作権において、貸与権は書籍には適用しないという暫定措置が取られていたのをやめ、貸与権を「有効」にする、というものです。その背景には、レンタル・ブック店に対処する、という目的があります。詳しくは、こちらを参照してください。私が昔、とある出版社にインタビューした際、社長さんが権利者としてのニーズを語っていました。曰く、近頃、マンガを出版しても第1版以降の追加オーダーが全く起こらなくなった。その背景のひとつとして、おそらく、レンタル・ブック店などのサービスの存在がある。彼らは、マンガを元手にお客さんを集めていながら、その利益を全く権利者に還元していない。その結果、権利者が痛手を蒙っている。それを一部還元するのが正当ではないか。その理屈は、レンタルCD・レンタルDVDと同じことですね。

こちらに対しては、それなりに、権利者の気持ちも分かるのか、音楽CDほどの激しい反発は出ていないように見えます。ただし、存在するビジネスの存続のためには、今度は、権利者から許諾を取る仕組みが必要になります。そうでなければ、レンタルビジネスがつぶれてしまい、利用者にとってはマイナスになってしまいます。この点については、業界の中で、権利処理団体を作って、既存のビジネスをつぶさないように、という配慮がされているようです。詳しくは、こちらこちらの資料をご覧ください。

権利を創設するときに、それに伴う取引費用(つまり、許諾をもらうための費用)を低くする措置を抱き合わせで取る、というのは、非常に重要なことです。そうしなければ、権利の創設と同時に、世の中には、許諾を取らなければいけない人が突然沢山出没し、その人たちの同意なくしては何も出来ない、ということになってしまって、著作物の利用が逆に阻害されかねないからです。そういう意味で、権利処理団体を作る、という方向性は、とてもいいことだと思います。あとは、その権利団体が、ライセンスを許諾するときに、あまりに差別的なことをしないで、むしろJASRACのような、オープンな方針を取ってくれるかどうかが重要だと思います。