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strict policy v loose policy

By Yuko Noguchi on

今日、Lessig教授と議論をしていたら、以下のようにアドバイスされました。

すなわち、著作権政策には、1)著作権強化、2)著作権緩和、という二つの大きな方向性がある。それぞれに、違ったプラス面とマイナス面がある。どちらがよい、悪いという判断を下すまえに、まずはそれぞれのプラスとマイナスを深く掘り下げて考えてみなさい、と。

そこで、自分なりに検討したことを考えてみたことを、まとめてみます。

実際の著作権制度は、権利強化だけ、緩和だけ、という極端な考え方ではなく、それぞれのポイントについて、両方のプラス・マイナスをよく分析した上で、二つの考え方を上手に組み合わせて、バランスの良い制度を作ることが大切になります。<著作権強化のための方策とプラス面・マイナス面>

その1:方策
著作権保護を強化する方策としては、大きく3つが考えられます。

1)権利内容を拡大する(たとえば、実演家人格権を創設する、著作権期間を延長する、など)

2)権利の執行を強化する(たとえば、損害賠償額を引き上げる、立証責任を転換したり証拠開示手続きを緩和したりして権利者の立証を容易にする、など)

3)少し毛色の違った方法として、法律ではなく技術的に著作物を保護する(暗号化する、技術的な利用制限をかける、など)、更にこれらの著作物保護技術を法的に保護する(保護技術を回避したり変更したりする行為を規制する)

その2:プラス面

1)他の人のフリーライドを防止し、許可と引き換えに対価を得ることで、投下資本の回収を可能にし、結果的に創作のインセンティブを与えることができる。

2)著作権の及ぶ範囲では、自分の許可無く、自分の作品を公表されたり利用されたりすることが無く、自分の作品に対するこだわりを維持することができる。

その3:マイナス面

1)利用者側からみると、著作物という情報の利用に当たって、許諾を取らなければいけない事項が増えたり、期間が延びたり、主体が増えたりする。ひとつの行為をするのに許可を取らなければならない権利者の数が増えると、その著作物を利用できる可能性はどんどん低くなる。例えば、
権利者が1人なら、OKの確率はYesかNoの2分の1。
2人なら 1/2 × 1/2 = 1/4。 
3人なら 1/4 × 1/2 = 1/8。
つまり、その情報を利用できる可能性は権利者の数の2乗に比例して小さくなっていく。

2)したがって、利用者(既存の著作物を使ってビジネスをしようとする人や、既存の著作物を一部利用して新たな作品を作ろうとするクリエーターや、それらのビジネスや創作をサポートしようとする技術開発者など)は、権利者の許諾を取る必要が高まる。許諾を取るべき権利の数が増えるほど、交渉相手も増え、許諾を得るための費用も高くなる。

3)そうすると、許諾を得るリソースを持っている人だけしか、利用ができなくなる。弁護士を雇うお金のある企業や、既にコンテンツをたくさん持っていて、クロスライセンスなどができる権利者が有利となり、弁護士を雇えない人たちや、許諾を引き換えに何かを提供しようにもお金や自分の作品のストックが無い新規参入者の人たちが不利になる。

4)結果的に、許諾が得られずに、利用されないままになってしまう著作物やコンテンツが増えてしまう。

5)また、これが極端に進むと、著作物を発信する人の集中が起こり、多様なクリエーターによる多様な創作が害される虞がある。また、情報の創作や流通をサポートする技術開発やビジネスに対して著作権者の発言力が高まり(たとえば、そんな技術は著作権侵害を助長する可能性があるから開発してはだめだ、または、そんなサービスでは著作権の保護が充分ではないからコンテンツは提供できない、など)、産業間に優劣ができる可能性がある。

したがって、権利拡大も、行き過ぎると、結局は著作物の利用が限られて権利者のためにもならず、社会全体のためにもならない、ということが分かります。

<著作権緩和のための方策とプラス面・マイナス面>

その1:方策
著作権保護を緩和する方策としては、大きく3つが考えられます。

1)権利の射程を限定する(例えば、著作権期間を縮小する、権利制限規定や例外規定を作る、など)

2)技術的制限の内容をよりフレキシブルにする(例えば、コピー不許可という条件を、コピー3回までOKという条件にする)。一定の場合に、保護技術の回避を法的に認める(例えば、研究・開発目的であれば回避してよい、正当な目的に基づく利用の場合には回避してよい、など)

3)取引費用を低くする。
取引費用、というのは経済学の用語で、ひとつの取引を成立させるために必要な費用で、取引財に対する対価以外のものをいう。たとえば、交渉相手を見つける費用、交渉にかかる費用、交渉の結果を実施する費用、などを含む。著作物を利用するためには、権利者から許諾を取らなければならないが、許諾を得るには、ライセンス料を払えばよいだけではない。権利者を見つけ出す費用、その人と交渉するための費用(弁護士費用、電話代...)なども必要になる。これらを減らすことで、許諾相手が増えたとしても許諾がスムーズに取れ、適正な対価を払いさえすれば著作物を効率よく利用できるようになる。
極端な例が、強制許諾制度である(お金を払えば交渉ゼロで著作物が利用できる)。そのほか、権利処理をするためのシステムをサポートすることなどがあげられる(音楽のJASRACなどの権利処理団体などがいい例)。

その2:プラス面
緩和政策のプラス面は、強化政策のマイナス面の反対の側面を持っています。つまり、

1)著作物の利用が促進される。利用が進めば、その分だけ、対価も入ってくることになり、クリエーターや権利者の費用回収につながる。

2)著作物が利用されやすくなると、既存の著作物を利用した新たな創作がしやすくなる。コンテンツだけではなく、著作物の利用を助けるハードウエア・ソフトウエア・ビジネスモデルなどが発展し、他の産業にもプラスの効果をもたらす。また、これらの発展に際して、権利者の意向に縛られない自由な発想が可能になる。

3)著作物利用と、利用に基づく新たな創作のためのバリアが低くなるので、著作物の創作に多様性が出る。

その3:マイナス面
ここもまた、強化政策のプラス面の反対の側面が出てきます。つまり、

1)保護範囲が制限されれば、その分、権利者のコントロールが弱まる。その分、取引から利益を得る機会が減る可能性がある(たとえば、著作権期間が短くなれば、著作物に基づく利益を教授できる期間が短くなるし、ある利用が自由になれば、その利用から対価を得ることができなくなる。)これが極端に進むと、充分な投下資本の回収ができなくなったり、創作のインセンティブが低下したりする可能性がある。

2)権利者の望まない利用が進む可能性がある。極端な例として、ポルノ的な利用や名誉を害するような利用がある。そのほかにも、権利者の望まないビジネスモデルの出現などがありうる。

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