この記事では、Grokster判決とSony判決の区別についてお話しましょう。
巷でも言われているように、Grokster判決はSony判決を覆したものではありません。
むしろ、先日のStanford Law Schoolのパネルでは、Sony判決をSafe Harbor(免責事由)として確立したもの、と捕らえられており、非常に興味深く思いました。
この、「ソニー判決をSafe Harborとして確立した」という主張は、22頁の脚注12に由来しています。具体的には、こちらです。
[fn 12] Of course, in the absence of other evidence of intent, a court would be unable to find contributory infringement liability merely based on a failure to take affirmative steps to prevent infringement, if the device otherwise was capable of substantial noninfringing uses. Such a holding would tread too close to the Sony safe harbor.
最後の4単語に注目!ですね。なぜか?
ソニー判決は、1984年の判決です。時はアナログ時代。VCRに録音機能があったとしても、ほとんどの利用者は、それをタイム・シフティング(時間をずらした視聴)という正当な目的(non-infringing use)で使っているのだから、このような合法にも使える装置をただ販売しただけでは責任を問われない、というのがその趣旨です。
しかし、ここ数年、このソニー判決は、もはや有効ではないのか?といった議論がされてきました。時はデジタル・ネットワーク時代に移り、Napster事件をはじめ、幾つかの事件でソニー判決の適用ははっきりと否定されているからです。
しかし、連邦最高裁は、今回、ソニー判決はいまだに有効であること、そして、ソニー判決のルールに該当すれば間接侵害から免責されること(Safe Harbor)を明確にしたわけです。
一方で、Grokster事件のように、「侵害助長の意図」がある場合は、ソニー判決は適用になりません。したがって、今後は、「合法にも違法にも使える装置」を販売する会社があり、その装置を用いた侵害事例が出てきた場合には、まず、その会社に「侵害助長の意図」があるかどうか、が一番の争点になるでしょう。そして、侵害の意図があれば、即、責任あり。侵害の意図がなければ、ソニー判決に該当すれば免責、となるわけです。
だからこそ、「どこまでやれば、侵害の意図があるのか」という具体的な事実のレベルが非常に重要なわけです。そして、その事実認定に皆の注意と批判が集中しているわけですね。
パネルでは、今後のビジネスに当たってのアドバイスとして、「装置の宣伝文言を気をつけること(弁護士に見てもらうこと)」「可能ならフィルタリング・ソフトを入れるなど、著作権侵害に配慮したビジネスを行っていることをアピールすること」などが飛び出していました。今後、ますます、弁護士が、ビジネス設計や装置設計の早期段階からアドバイスを求められる時代になるかもしれない、それがいいことなのか、良くないことなのか、といった議論もされていました。
ということで、とりあえずは、差し戻し審の事実認定に注目、ですね。