Stanford CIS

Grokster Case (1)

By Yuko Noguchi on

日本でもおそらく話題になっているだろう2005年6月27日のGrokster連邦最高裁判決(和訳はこちらなど参照)について、先日、スタンフォード・ロー・スクールで開かれたMark A. LemleyIan Ballonがコメントするパネルに出席しました。

予想通り!というコメントのほかに、面白いコメントがいくつかありましたので、ここでご紹介しましょう。

まずは簡単な判決の紹介から。

ご存知のとおり、この事件は、P2Pファイル交換ネットワークの提供者らに対して、著作権者が著作権侵害の間接侵害責任を問うために起こした訴訟の最高裁判決です。この判決では、1984年の有名なソニー最高裁判決の行方を含めて、「合法にも非合法にも使えるデバイス(ソフトウェアを含む)」の取り扱いに注目が集まっていました。

今回、最高裁の多数意見では、基本的にソニー判決を維持しながら、新しく「Inducement rule」(侵害を誘引する者に対する責任のルール)を打ち出した、という点が新しい点である。一番肝心なことを述べている一般論はこちら。

"...holding that one who distributes a device with the object of promoting its use to infringe copyright, as shown by clear expression or other affirmative steps taken to foster infringement, is liable for the resulting acts of infringement by third parties."(判決19頁、II-C参照。)

つまり、著作権侵害を促進する目的でデバイスを頒布した者は(そのデバイスを受領した)第三者の行為によって生じた侵害の責任を負う、ということです。そして、この「侵害促進目的」は、その旨の明白な表現もしくはその他の「侵害を助長する積極的な手段」から判断される、という訳です。

先日のパネルでLemley教授もコメントしていましたが、この「侵害促進者」が有責だという一般論については、目立った批判はありません。むしろ、この最高裁判決で問題にされているのは、上記の「誘引者ルール」を適用するに当たって判決が注目した具体的な事実が比較的広いこと、ソニー判決との線引きが明らかでないことです。そのため、「どこまでが良くて、どこからが違法なのか」ということの区別が市場における企業には判断しにくいのではないか、その結果、萎縮効果などが生じるのではないか、という批判がなされています。

私も、この点はLemley教授らの意見に賛成です。具体的に見ていきましょう。

最高裁は、Grokster側の問題ある行為として、(1)違法であることが明らかにされつつあった旧Napsterサービスの顧客(=侵害者)を自分たちの顧客として取り込もうという積極的な宣伝・顧客誘引活動をしていた、(2)著作権侵害をフィルターするソフトウェアを導入する機会があったのに、それをしなかった、(3)そして、広告ビジネスで儲けていた(=著作権侵害で顧客が集まれば集まるほど、自己サイトの広告スペースのページ・ビューが上がり、ビジネスが儲かる仕組みだった)ことの3点を特に強調しています。

けれども、事件の事実を見ると、本当に問題があったのはこれらの3点なのでしょうか。私は違うような気がするんですね。むしろ、最高裁がもっと問題として取り上げるべき事実はほかにあったと思います。たとえば、

・訴訟の途中で明らかになったStreamCastの社内文書で、当初、StreamCastが、「他のP2Pファイル交換ネットワークよりも多くの著作権つき音楽がネットワークで供給されることを狙っている」という趣旨のものが存在していること。

・Groksterの顧客を集めるにあたって、”OpenNap"というソフトウェアを通じてNapsterの顧客のEメール・アドレスを積極的に集めて、彼らをターゲットにGroksterソフトウェアを配布したこと

・人気Top40の音楽を検索できる機能がついており、そこにリストアップされる音楽はほとんどすべて著作権があったこと(それを知っていて推奨するような行為をとっていたこと)

などは、著作権侵害を助長する行為だ、と非難されても仕方ないかもしれないと思います。

ところが、最高裁はこれらの事実をなぜか「重要な事実」としては取り上げず、もっと曖昧で、非難に値するかどうか検討が必要な事実の方に注目していることが、非常に不可解です。たとえば、

・Groksterの名前がNapsterと似ていること 
(→そんなに取り立てて問題にするほどのことなのかでしょうか?似ている名前なんて沢山あって、名前が似ていても実態が違えば問題ないはずだと思いませんか。)

・フィルタリング・ソフトウェアを導入しなかったこと
(→確かに、事実関係として、Groksterには、ポルノ関係のフィルタリング機能がついていたという話もあります。そうすると、なぜポルノ関係は努力して著作権侵害には努力しないのか、それは意図的じゃないか、という批判はありえるところです。けれども、その点を問題にするなら、ポルノ関係のフィルタリングとの比較を持ち出すことで問題にしてほしかった気持ちがあります。しかし、最大の問題は、一方で「単に侵害が行われていることを知っているだけではフィルタリングの義務は生じない」といいつつ、どこまでになると「フィルタリングをする義務」が生じるのかを一切明らかにしていないことです。そのため、今後のビジネスの指針に混乱をきたすのではないかと心配されるところですね。判決22頁の脚注12参照。)

・広告収入を得ていたこと
(→では、非営利団体だったら有利なのでしょうか。確かに、他人の権利を侵害してビジネスをするのはいけない、という気持ちはわかります。しかし、ほとんどの企業は営利活動をしているわけであって、その中には、結果として他人の権利侵害でお金が儲かってしまう構図というのは往々にして起こってしまうことです。これをすべて禁止するなら、ソニー判決自体が覆されることになり、最高裁はそれを望んでいないと明確にしています。それならば、侵害助長の行為そのものにもっと重点を置き、企業が営利であったかどうかにそんなに力点を置くべきではなかったのではないかと思います。これもまた、今後の企業活動への影響が心配されるところです。)

Lawrence Lessig教授は、Business Weekの記事の中で、これらの曖昧さは、今後の訴訟でクリアにされる他はなく、将来の無用な裁判を生みながら、その繰り返しの中で徐々に明らかになるだろう、とコメントしています

近年の、展開の速い技術とビジネスの革新の波の中で、曖昧なルールが招く混乱や萎縮は本当に市場にプラスにはなりません。連邦最高裁も、そのあたりをもう少し配慮してほしかったな、と思います。

最高裁は、「侵害を助長する積極的手段」(affirmative steps)が問題だと一般論で言っておきながら、実際には「フィルタリングをしなかった」こと、などの不作為を問題にしているのは奇妙な感じがします。

さて、批判はこのくらいにして、ソニー判決との関係については、次の記事で書きましょう。

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