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Digital Hollywood, Spring 2005 (2): about P2P

By Yuko Noguchi on

さて、続いてPeer to Peer network (P2P)について、Digital Hollywoodで議論されていたことを見てみましょう。

これまた、当然のことも幾つか含まれているのですが、一番印象深かったのは、P2Pに関わる人たちが、だんだん認知されてきた、ということです。(無視せざるを得なくなってきた、というほうが正しいのかもしれませんが。)
1)(当たり前ながら)P2Pは、コミュニティ形成に非常に有効だ、ということでした。特に、まだ知名度を得ていなかったアーティストが売り出すベースとして、実際、威力を発揮し始めている。
 ひとつのビジネスモデルとして、実際成功を収めているのが、「音楽を売る」という発想から、「アーティストとのつながりを売る」という発想への転換、だそうです。コンテンツにお金を払うのではなくて、アーティストとのRelationshipにお金を払う、という感覚。そうすれば、難しいDRMなどなくても、音楽で生きていける、という提案です。
 つまり、P2Pに流すコンテンツにURLなどをつけて、サイトに人が集まるようにする。そして、そのサイトに集まってくるのコアなファンに対して、プレミアなサービスを提供してお金を回収する。インディーズのように、大手のレコードレーベルを通さなければ、ある程度の知名度があれば、十分生活していけるレベルが確保できる、と話しているセッションがありました。(こちらです。)
 たとえば、「サイン入りの限定CD」「ファンクラブ会員権」「コンサートチケット」などなどを販売すれば、ミリオン・ヒットなど無くても、ファンが3000人くらいいれば、音楽だけで生計を立てていける。P2P以前には、考えられなかったことだ、というコメントがありました。そして、中高生でも、自分の払ったお金が直接、自分の好きなアーティストの懐に入るんだ、彼らを自分が支えているんだと思えば、絶対にお金を払ってくれる、彼らは、音楽にお金を払わないというのは嘘だ、と強調していました。
 具体例として、ArtistShareのマリア・シュナイダーは、グラミー賞を取るほどの人ですが、このビジネスモデルで、レーベルに頼らず活動をして、十分な利益を上げている、ということでした。

2)そうすると、問題は、どうやってP2Pなどで注目してもらうか?ということ。WebサイトはPull型なので、すでに知られた人には有効だが、あまり知られていない人にはそんなに有効でもない、P2Pにコンテンツを流しても、誰も見てくれなければ意味がない。
 これは、突き詰めると、ほかにも共通する、EコマースのPR戦略の問題ですね。具体的な案としては、すでに有名でテイストの似ている人と組み合わせてもらい、アマゾンのように、「XXを気に入った人は、YYも好きです。」という風に、P2Pのアグリゲーターに勧めててもらう;アーティスト同士で協力する;サイト同士で協力する;などが紹介されていました。
 
3)もうひとつの人を集める方法としては、懸賞などで集める。
 「XXXのサイン入りギターが1名様にあたります」といって募ると、沢山の応募があるので、それをきっかけにターゲッテングを進めていく、といった手法が紹介されていました。(ただし、この辺は、アメリカがプライバシー法に非常に緩やかで、ひとつの目的で集めた情報を、同じ企業内などであればほかの目的にも基本的に使える、というところが前提です。日本は、プライバシー法がもう少し厳しくて、個人情報保護法も施行されましたし、なかなか難しい面もあるかもしれませんが。)

4) MajorなStudioやLebelsは、まだP2Pに乗り出すまでにはいたっていないが、マーケットの大きさからいって、おそらく音楽で、メジャー・レーベルがP2Pに乗り出すのは時間の問題ではないか、などという意見も飛び出していました。一昔前なら、P2Pのネーットワーク・オペレーターは、Majorの人達と口を利くことすらできなかったが、今は普通に話もできるし、実は、日常のビジネス・トークもゼロではない、とのこと。実際、P2Pのあるパネルでも、EMIミュージックのTed Cohenさんと、StreamCastのMike Weissさんが、パネラーとして同席して、P2Pのあり方について公に語っているを見ると、隔世の感があります。
 なにしろ、2年ほど前の同じDigital Hollywoodでは、Mikeが客席で、メジャーレーベルの人に質問をしていて、非常に冷ややかな対応をされていたのですから。

5)P2Pは、コンテンツだけではなく、有体物の売買にも有効、という議論がされていました。これも、もちろん、当たり前の話です。
 コミュニティーができてしまえば、それに関連したグッズ(たとえば、シンプソンのファンなら、シンプソンTシャツやグッズ、たとえばアーティストのファンなら、アーティストが着た洋服とか、アーティストがお勧めのグッズなど)をネットで販売し、P2Pからその販売サイトへ人を誘導することにより、より効率の良い商売が可能。

6)P2P関連の技術プロバイダー(たとえば、超流通のためのデジタル・コンテナを提供するDRMベンダーや、P2Pで支払いを可能にする人達)は、投資回収先として、1,2年前は、まだ、Majorの人達を説得しようと努めていた節が多分にあったのですが、今年は、ちょっと違いました。勿論、Majorの人達と組めればいいのだろうけれど、組めなくても、それはそれでお金を作る方法もあるし、どんどんビッグになって、そのうち、そちらから無視できないほどの存在になってやる、というような自信のような気概のようなものを感じました。

7)P2Pが広がっていけば行くほど、P2Pの「ソフトウエア・プロバイダー」と称する人達は、実は「放送局」「ケーブル局」と同じようなパワーを持つのでは、という見方もかなり見られました。集客力・宣伝力を考えれば、当然です。だって、利用者はまず、P2Pソフトウェアを立ち上げて、彼らのサイトにまずLog-inするように設計が可能なわけで、そうすると、そのTopページ一番、露出度が高いわけだから、そこで、P2Pプロバイダーに宣伝してもらえれば、非常に大きなインパクトを持つわけです。彼らは、そのうち市場で、すごい力を持つんじゃないか、という噂もあながち冗談では済まされません。日本の企業も、Winny騒ぎなどで、P2Pに対するブラックなイメージを持ちがちですが、P2Pベンダーとしての立場を確立するなら、早い者勝ちですから、今がチャンスかもしれません。

8)ちなみに、Groksterの最高裁についてのコメントも色々出てました。技術自体は、違法とは言われないのでは?しかし、P2Pのソフトウェアの使い方や宣伝のしかた、違法なコンテンツがあることを知っていながら放置する責任など、運用の仕方について、何か判断がでて、(たとえば、積極的に違法なコンテンツを進めていたり、知っていて長く放置していたりすれば違法だけど、そうでなければ合法、といったような、ISPと似たような責任がある、など)、その具体的な事実認定のため、下級審に差し戻されるのではないか、というのが、比較的有力な見方のように感じました。いずれにしても、今年の夏の終わり頃に、判決が出るのでは、といわれています。(上記と関連して、彼らは、放送局やISP類似の立場なのか、それともただの「ソフトウェア・ベンダー」なのか、というのは面白い論点だ、と思いました。)
 しかし、判決については、Fair useに関する有名なSony最高裁判決(1984年)そのままが該当する、というだけの判決は出さない、と判事が示したということなので、何が出てくるか、期待されますね。

9)ついでに、P2P関連特許は、ビジネスモデルを含め、USAでは年々増えているとのこと。ここまで、P2Pがネットワークとして認知されてきて、近い将来、「まともな商売」が可能になってくると、今度は特許争いが予想されますね。

以上、まとまりがないのですが、つらつらとP2Pについて、でした。

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