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Digital Hollywood, Spring 2005 (1): about DRM

By Yuko Noguchi on

そういえば、少し前になりますが、3月30日から4月1日まで、恒例のDigital Hollywoodに今年も顔を出してきました。

いつものように、ビジネスの話、技術の話が中心で、法律の話はあまりないのですが、デジタル著作権を勉強すればするほど、要するにビジネスや技術のことを知らずして著作権のあり方を論じることは出来ないのだと痛感するので、むしろ、こういうビジネスや技術の分野の人の本音が垣間見られるこのカンファレンスは、実は私のお気に入りのひとつです。

まずは、DRM(Digital Rights Management)について思ったことをつらつら書いてみます。DRMに詳しい方にとっては、当然でしょ、という内容もあると思いますが、現況の確認、ということでご容赦ください。

1)Consumer expectationに対する注目は、iTunesの成功以来、ビジネスモデルを成功に導く重要な要因として議論されるようになりましたが、その注目度はますます高まった模様。つまり、消費者は、気に入って価値があると思えばお金は払う。どうやれば、気に入ってもらえるか、という議論がかなり見られました。3年ほど前には、「消費者というのは放置すると悪さをする存在なので、いかに管理するか」というのが議論の中心だったことを思うと、すこし感慨深いです。やっぱり、市場の威力は偉大だと痛感します。
 しかし、こうやって、市場を通じて利用者が声を届けるには、時間がかかるわけなので、著作権の問題の解決方法や政策を論じるには、ある程度の時間が必要なのだと思うわけです。

2)DRMに必要な要素として議論されることのひとつで、従来あまり聞かなかった台詞のひとつが、Flexibilityです。つまり、DRMのUsage rulesにiTuneのように遊びを持たせて、DRMの庭の中でUserに好きなように行動させる(=コピーも許す)と、利用者は満足するのでは?
 しかし、これに対しては、音楽はすでにこの問題をほぼ乗り越えたが、映画のStudioなどは、まだまだ保守的な態度を崩していません。カンファレンスに参加していたWarner Brothersの人曰く、「(コピーが増える毎に)もっとお金を払ってくれる、というのなら、勿論Flexibleにしてもいい。」とのこと。しかし、どんなにFlexibleな条件でも、価格が高ければ利用者は買いません。したがって、最後は、いかにFlexibleにできるか、ということと、いかに価格交渉で生き残るか、ということが重要なわけですが、これには、ある程度、権利者の側の発想の転換も必要なのかもしれません。

3)DRMの中のFlexibilityと、Interoperabilityは違うことで、どちらのアプローチが、コンテンツ・オーナーのやりたいことなのか、という問題もありました。つまり、消費者は、買ったコンテンツをコピーして、色んなデバイスで視聴できるようになりたい。ひとつのDRMの規格に準拠している複数のデバイスの中であれば自由に動き回れる、というのなら、(Switching costは勿論あるけれど)全てのデバイスについて、ひとつのDRMスタンダードに終始すれば、それでOKなはず。(結果、フォーマットの独占、またはスタンダード化につながっていく。)それとも、複数の異なるDRMのフォーマットやモデルが並立し、ひとつのフォーマットの中のフレキシビリティがないため、違うシステムやフォーマット間のInteroperabilityが必要なのか。同じ、コンテンツを動かす、といっても、大きく二つ方向性があるわけですね。

4)セキュリテイのエキスパートとしてパネルに出ていたCryptography ResearchCarter Larenの立場から言うと、勿論、Interoperabilityは重要なのだけれど、それを実現すると、つながっている全てのデバイスの中で一番セキュリティ・スタンダードの低いフォーマットまたはリンクが、その環境のセキュリティのレベルになってしまって(Weakest chainの問題)、セキュリティという観点からはあまり好ましくない。それよりは、ひとつの、レベルが高いセキュリティの環境の中で、フレキシビリティを高めていったほうが、結局、コンテンツ・ホルダーにとってもユーザーにとってもハッピーなのじゃないか?というようなコメントをしていました。

5) デバイスは、これからもっと、シンプルにならなければいけない、という議論もまだ健在です。沢山のDRMは、消費者にとって、まだ難しすぎる。たとえば、PCのインターフェイスなどにおいても、人にタイプさせるのではなく、選ばせる(iModeのように、プル・ダウン・メニューにする)といった工夫が、まだまだ必要ではないか。
 同時に、「買った」コンテンツでは、何ができて何ができないのか、ということが、まだまだ、消費者に分かりにくいことも問題だ。それを、購入段階で、いかにわかりやすくするか、操作をいかに簡単にするか、にもっと注力すべし。
(余談ですが、ドイツでは、この、DRMが利用者から分かりにくい、という問題を解決するため、著作権法に、「DRMプロテクションの範囲や内容について、きちんとDiscloseする」義務を負わせた、ということです。ドイツ著作権法95条d(1)。出典はStefan Bechtold "Digital Rights Management in the United States and Europe" 52 Am. J. Comp. L. 323 (2004) at 380, n280.)

6)正当な理由がある場合には、消費者がDRMをHackできる権利、という考えについては、このパネルにでていたMPAAのBrad Huntさんなどは勿論大反対の様子でしたが、セキュリティの観点から、たとえばIntelなども反対。IntelのDon Whitesideさん曰く、同じセキュリティを担保する技術が、企業秘密や医療情報や、そのほか色んなものを守るために使われるので、著作権だけの観点から、技術のHackingを認めるかどうかを決めるべきではない、とのこと。
(ただ、この論点で、いつも面白いと私が思うのは、Securityリサーチのコミュニティにいる人ほど、Hackingを禁止することに難色を示すことです。基本的に、セキュリティのリサーチというのは、セキュリティ技術が出ると、それを知恵を絞ってHackingし、そのセキュリティ・ホールをどう埋めるかを考える、という方法によって行われるからです。つまり、セキュリティのエキスパートというのは、「良いハッカー」なのですね。彼らから言わせると、セキュリティを破る方法を、Piracyの目的でなく行うことを禁止することは、結局、法律を気にしない悪い人だけをのさばらせる結果になって、Securityの観点からは、決して望ましいことではない、といっています。詳しくは、また今度書きましょう。)

7)”Fair use"できる権利が奪われているから、XXXしよう(回避を許そう、Key escrow体制を作らねば、などなど)という議論を回避するためにも、”Fair use以上のことをすでにDRMのフレキシビリティの中で実現している”という状況が望ましいと思って努力している、というのがIntelの言でした。
 確かに、Private copying(バックアップとか、デバイス間の移動など)を許容することについては、だんだん、権利者の意識も高まってきたような気もします。
 問題は、引用とか報道目的の利用とか、改変を伴うようなものが、まだ対処されていない(どころか、問題として認識もされていない)ことでしょうか。

8)勿論、MPAAの、いつものトーク(「Intellectual property とPhysical Propertyは同じ保護が必要」「コンテンツ・オーナーは、コンテンツのありとあらゆる使用を制限して、コントロールして、そこからお金を回収する権利がある」などなど)は健在でした。まぁ、ところどころ、突っ込まれると譲歩してましたが。なぜ、DRMに対してフレキシビリティを提供しないのか、DRMがあまりに制限的過ぎて、消費者が嫌がっているから全然売れないのじゃないか、それではFirst sale doctrineはどうなるのか、Fair use はどうなるのか、などの指摘については、一貫して、"DRM is in its early stage yet"の一点張り。(まぁ、確かに、商業用DRMの市場がまだ黎明期であることは事実ではありますが)
そういえば、MPAAも、つい最近、RIAAと同じようにエンド・ユーザーを訴えた、と聞きましたが。チェックしなければ。

9)OMAスタンダードv2が暫く前にリリースされましたが、そこには、フレキシビリティを可能にする色々な機能が入っており、たとえば、「ドメイン」という考え方がある、と聞きました。同じドメインとして登録したデバイスについては、同じ料金でDRMの鍵を与えることにより、Home networkの環境におけるコンテンツの移動を可能にする、などの対応を狙っており、Mobileだけでなく、PCやP2Pでも広く使われる事を期待している、ということでした。
 そういえば、OMAv1のライセンスがすでにMPEG LAを通じて発表されている(ライセンス条件はこちら)が、はっきり言って値段が高すぎで(1デバイスにつき1ドル?)、全然広まらないのではないかと心配、ということでした。値下げ交渉がされるだろう、という噂が出ていましたが、どうなりますか。MPEG LAによれば、もうすぐ、最終のライセンス条件が提示される予定、とか。(プレス・リリースはこちら

10)デバイス・メーカーの方何人かと立ち話をしていると、法律で何が問題、といって、一番厄介なのは、国ごとに著作権法とかレギュレーションが違うことだ、という意見を複数聞きました。国ごとにデバイスのデザインを変えるなんてことは、コストが高すぎてありえないので、アメリカがどうとか、日本がどうとか、じゃ無くて、とりあえず、できるだけ足並みをそろえて欲しいです、といわれました。しかし、それは、国の主権の問題で、技術の分野と同じように、法律の”Harmonization"は前から議論されてますが、(特に特許と著作権などの知的財産法)、技術と同じかそれ以上に難しいですよね。

と、取りとめもなく書きましたが。
次は、Digital HollywoodでのP2P議論について書いてみたいと思います。

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