Creative Commons(CC)という著作権のライセンス活動については、日本でも最近、色々なコメントがされるようになりました。しかし、中には、「なんで、Laurence Lessigのような憲法学者・サイバー法学者が、あんなプロジェクトに熱心になるのか、良く分からない。」といったようなコメントもしばしば聞かれます。そこで、私なりの理解をここに少し書いてみようと思います。
ひとことでいうと、CCは、著作権を最大限尊重しつつ、同時に、著作権ルールのカスタマイズをすすめて、フレキシブルな著作権ルールと、産業用の著作権保護を両立させよう、という動きだと言うことが出来ます。
著作権制度は、文化の発展のために存在しています。実際には、米国における著作権立法は、エンターテインメント業界(特に、ロビイング力の強い映画産業や音楽産業)のニーズをサポートする側面が大きくなっています。彼らの影響力は、米国にとどまらず、TRIPSやWIPOなどの国際条約の場面でも非常に大きいものがあり、結果として、条約を通じて、世界中へ波及しているといえます。著作権をビジネスのコアに置く彼らにとって、強力な法的保護は、産業存立のために不可欠なものです。そして、現在の法律の動きは、そうした法的保護のニーズに最大限に答える形で保護強化をたどっています。
しかし、実際に著作権法がカバーするのは、こうした映画・音楽産業だけでなく、他の産業(ソフトウェア、出版など)、アマチュア作家、人々のちょっとした日常の活動なども含む、非常に広い範囲です。情報化した現在の社会では、ちょっとした音楽や文献やソフトウェアのバックアップ、ホームページやBlogへのコメントの引用など、日常生活の活動の一つ一つに、著作権は切っても切れない形で入り込んでいます。そして、少し著作権を勉強した人なら分かるとおり、実は、著作権のルールを真面目に守ろうとすると、かなりの活動が「違法」になってしまうのです。不便だなぁ、と、心の中で感じている人も沢山いるに違いありません。でも、映画も音楽も楽しみたい。だから、仕方ないのだろうか??
このように、著作権をコアにビジネスを展開する立場と、ちょっとした日常生活における著作権の利用では、利用のルールのニーズが異なることがあります。法律は、もっとも厳しい保護を要求する産業に水準を合わせている。それは、産業保護という側面も併せ持つ著作権法から見て、ある意味、自然なことなのです。でも、日常においては、もっと自由なやりとりが出来る情報も沢山あった方が楽しいじゃないか?そのために、もっと気楽な日常の情報のやりとりのためのルールもあっていいのではないか。強力な保護を要求する人たちと、情報の共有を望む人たちが、著作物ごとにルールをカスタマイズし、両方が共存できる世界はないのだろうか。
それを実現しようとするのがCCです。これまでにも、意識的に、または無意識に、日常における著作物のルールが存在してきました。そういう意味で、CCは、決して新しい試みではありません。けれど、これまでのルールは、閉じられたコミュニティの中だけで共有されるものだったり、または、個人がそれぞれ、「侵害を放置する」形や「共有OKです」と個別に意思表示する形で、ばらばらに存在してきました。
それを、もっと推し進めて、せっかくなら、きちんとした法的ライセンスがあったら安心じゃないか?しかも、メタ・データを通じて検索エンジンでそういうルールが検索できたら、便利で楽しいではないか?世界中で、一定のニーズをくみ上げるについて、共通のルールがあったら便利じゃないか?色んな世界の声から、著作権について皆が考えていることを教えてもらえたら、産業にとっても、一般の人たちにとっても、よりよい著作権ルールが見つかるのではないか?いつの日か、そうした共存ルールが洗練され、社会に浸透したら、もしかして、立法がそれを取り込む日もくるかも?
そうした、色々な夢をもって、日々試行錯誤しているのがCCです。しばしば、CCは「アンチ著作権?」などという誤解を受けることがありますが、そうではありません。CCもまた、著作権法に基づいているライセンス活動だという点では、ハリウッドと同じなのですね。だからこそ、MPAAのJack Valentiさんも、CCの立ち上げに当たって、以下のようなメッセージを送ったのだということが出来ます。
"Larry makes it clear that he is supportive of copyright, and I agree that people may want to give up part or all of their copyright protection .... Creative Commons strikes a marvelous balance between copyright protection and copyright material that people want to make available."
(詳しくはこちらの記事をどうぞ。)